月とひまわり
『お願いがあるんだけど』
手紙は、そんな書き出しだった。
『来てほしいんだ、君に。』
現地までの航空券まで同封しておきながら『もし無理だったら』『気が進まなかったら』とか、いやもう、そういう問題じゃないだろう？と読みながら突っ込んでいた。
タイラントはもちろん、指定された日時に出かけることにする。
※
空の旅は滞りなく、待ち合わせ場所であるホテルのロビーにはずいぶんと早く着いてしまった。機内で散々頭を悩ませてきた問題にいまだ答えを出せずにいるタイラントは、気分転換がてら、この辺りを散策することにした。
「いよっ、兄さん。乗って行かないか？」
歩き出していくらもしないうちに、この辺りではメジャーな移動手段である人力三輪車にまたがった青年に声をかけられる。
「超特急でおススメの場所まで案内するよ！」
どうするか、と考えたのは一瞬で、すぐに乗車を決める。これも何かの縁だ。
料金の交渉をしてタイラントが座席に収まると、自転車はうぃんうぃんと独特の音をたてて加速し道を行く。景色を眺めるにはちょうどいい速度だった。
最近、特に開発が進んできたこの街は落ち着きがなく、空気が限界ぎりぎりまで詰まった風船のような危なっかしい活気に満ちている。世界に追いつこうとするもの、古き時代を守ろうとするもの、富むもの、貧しきもの、さまざまなものを飲み込んだ混沌の中で、人々は日々を淡々と生きているようだ。
メインストリートへと出たところで、とめてくれ、と青年に声をかけて席を立った。ここからは地元の人間よりも観光客が大半を占めている。
一応、観光客よろしく有名なモニュメントなどを眺めていると、人ごみの中、少年がすりを働く現場に出くわした。すられる方は見るからに成金という初老の男だったので、そのまま様子を見守る。
少年は慣れた手つきで財布をすり、してやったりとほくそえんだ。しかし余裕の表情はつかの間で、突然現れた立派な体格の男に立ちふさがれて顔色を変える。男が逃げようとした少年の腕を無造作につかんだ。
「放せよ！」
少年がせっぱつまった声を上げた。しかし男は訴えに塵ほどの反応もせずに、少年の身体検査をはじめる。それは財布を取り戻しても終わらず、ついに男は目的のものを探り当てたようで満足そうな表情を見せた。
「これも盗品だな」
男が日に照らして見せたのは、翡翠だった。
「ちがう！それはオレのだ！」
「嘘をつくな。お前のようなやつが、こんな高級品を持つはずがない」
「返せよ！」
少年は飛びかかったが、男にあっさりと吹っ飛ばされた。地面に転がった少年はそれでも果敢に立ち上がり、再度つかみかかろうとする。
男は不愉快そうに眉をしかめ、それまでとは違う、あきらかな殺気をひらめかせた。
手は振り上げられた。
そして。
少年に向けて振り落とされるはずだった一撃は、割り込んできたタイラントの腕によって止められていた。
「やりすぎだろ。その辺でやめておけ」
タイラントが腕を払いながら陽気に言う。男は無表情のまま闖入者に詰め寄った。
「何者だ」
「通りすがりの観光客だ」
「ならば、引っ込んでいてもらおう。この少年は罪を犯したのだ」
「知ってるよ。だからやりすぎだっていってるんだ」
男が苛立ちをあらわにして、口元に笑みさえ浮かべているタイラントと対峙する。にわかに場が緊迫し頂点に達しようとしていた、その瞬間。
「すみませんが」
突然、穏やかな声がさえぎった。男は瞬時に無表情に戻り、声の主である初老の男の脇に控えた。
「私が大切なものをすられたことで、部下がやや感情的になってしまったようです。ですが」
男に目配せし、差し出された少年の翡翠を観察する。
「確かにこの翡翠は、子供が持つには高価すぎますな・・・一応、盗難届けが出ていないか、問い合わせた上で彼にお返ししましょう。それでいかがかな？」
穏やかな老人は、しかし食えないという印象が強い。タイラントがわずかに不快な表情になる。
「そういう、人を疑うやり方は好きじゃない」
「通りすがりのあなたには、少年のことはよくわかっていない・・・のかもしれませんよ？私としては、あまり事を荒立てたくないのですがね」
周囲の人ごみに紛れていたボディガードたちが一斉に臨戦態勢になる。彼らを従える主人の方はただ穏やかに回答を待っていた。己の有利を知っている、余裕の態度だった。
タイラントが体の緊張を解いてみせた。別にものの数ではないが、場所が場所だけに騒ぎを起こせば、誰の耳にはいるとも限らない。面倒を起こすのは避けたかった。
「連絡先は？どこへ取りに行けばいいんだ」
望みどおりの返答を得てにこりと笑った主人の視線を受け、ボディガードが名刺を差し出した。＜リー・ウイリアム＞とかかれた後に、住所があるだけの簡素な名刺。
「すぐに調べておきますから、いつでもいらっしゃい。お茶ぐらいはおもてなしさせていただきますよ」
言い残すと、初老の男・・・リーはボディガードを引き連れてその場を立ち去っていく。
「おい、まてよ！」
ようやく我に返ったのか、少年がその後を追おうとするのをタイラントが止めた。
「やめろ。今度は容赦なく警察行きだ。そのまま帰ってこれなくなるかもしれないぞ」
少年が黙り込む。そのこぶしが小さく震えている。
「あれは、大切なものなんだ」
怒りをあらわにした声。
「取り返す！」
タイラントが少し考えて、それから少年と目線を合わせるために腰を落とした。
「心配するな。俺も一緒に行くから」
気持ちをほぐすために、少年の頭に手を載せて前後にかき回してやる。揺らされた少年は迷った表情で黙り込んで、しばらくして真摯な瞳をタイラントに向けた。
「なんでだよ。なんでオレにかまうんだ？」
尋ねられて、今度はタイラントが迷う表情になった。
「気になるから・・・かな」
少年がいぶかしげにタイラントを見た。その視線があからさまに「へんなヤツ」と言ってるのに気が付いて苦笑する。
「俺はタイラントだ。お前は？」
「・・・ジアン」
「ジアン、俺は待ち合わせてるヤツがいるから事情を話してくる。実は約束の時間が過ぎてるんだ。だからここでちょっと待ってろ」
少年・・・ジアンがうなずいたのを見て、タイラントは待ち合わせ場所であるホテルへと駆け出した。
※
約束の時間より、遅れること３０分。
案の定、心配そうに辺りを見回しているジョーがいた。手を振って名を呼ぶと、すぐに気が付いて表情を緩ませるのがわかった。
「よかった。場所がわからなかったのかと思って心配したんだ」
「いや、その」
久しぶりに必殺の笑顔をまともにくらってしまい、思わず絶句した。そういえば会ったらコレを言おうとか色々悩んでいたのを、少年のごたごたですっかり失念していたのだ。
再会の言葉をひねり出す前に、さあ行こうか、と促されて慌てて引き止める。
「実は・・・ちょっと用事ができて」
あせったタイラントの様子に、ジョーがふいをつかれたような顔した。
「そうなんだ。ごめん。僕が無理に誘ったから」
「いやそうじゃなくてだな。本当にちょっとした用で、夜には戻れるから。もうすこし後で迎えに来てくれよ」
もちろん面倒だったら・・・と言いかけた時、全てを見通す瞳に出会って言葉を切る。
「大丈夫なんだね？」
短いが、全てを集約した確認だった。タイラントがうなずく。
「大丈夫だ」
「なら、行ってこいよ」
※
タイラントの姿が人ごみに消えてから、ジョーはあきれ顔になった。
「慌しいやつだな」
つぶやいて。
「元々が、トラブルしょいこみ屋なんじゃないか」
同じくあきれた声が背後からかかって、ジョーが振り向いた。その存在に驚いた様子もなく疑問を投げる。
「用事って、なんだか知ってる？」
「ああ。まあ、あいつらしいっちゃ、あいつらしいよ」
笑い混じりに答えたのは、タイラントを広場まで運んだ人力三輪車の青年だった。彼はさきほどのリー・ウイリアムとのいざこざ、それにタイラントと少年とのやりとりの一部始終を見ていたのだ。
「・・・ということだ」
ひととおり説明を聞いた後、なるほど、とジョーが得心の笑みをこぼす。
「タイラントらしいね」
※
広場に戻るとジアンの姿はすでになかった。
半ば予想していたことなので、戸惑うことなくリーの屋敷へ出向く。
目的の場所は、いやに静まり返っていた。
ジアンはすでに来ているはずだ。
屋敷の様子を探る。さすがに警備は厳重。荘厳な門が来るものを阻んでおり、その向こう側にはこれが個人の邸宅か？と疑わしき豪奢な建物が垣間見えている。少数の大金持ちと、その他と。この国の構造を改めて思い知らされる。
ふと、気配を感じて物陰に隠れた。固く閉ざされていた門扉がゆっくりと開いていく。待ち構えていた召使いたちが頭を下げた。
「おかえりなさいませ、だんなさま」
「うむ」
到着した車から降りてきたのは、リー・ウイリアムだった。そのまま単身で屋敷内に消える。
人の気配が完全に消えてからタイラントが再度門前に歩み寄った。
とりあえず出方を見るか、とインターフォンを押す。
「あれは盗品だった、と連絡が入っております。お引取りください」
そう答えたのは、恐らく先ほどいた召使いの内の一人だろう。取り次ぐ間もなく、ここまできっぱり拒絶されるとは正直思っていなかったので面食らう。
「ちょっと待ってくれよ。少し話を・・・」
「お引き取りください。これ以上居座るつもりなら警察を呼びます」
オドシ文句を捨てぜりふに、インターフォンから回線を断ち切る耳障りな音が聞こえた。
タイラントが空を仰ぐ。
「ったく」
気を取り直し、屋敷内でも探索するかと塀を見上げたとき。
「何やってるんだい？」
背後から急に声が割り込んだ。振り返ると、ジョーが初めから一緒にいたように立っている。
「いつのまに？」
「たった今だよ」
ジョーは興味なさげに屋敷の様子を眺めた。
「ここだろ？君が用のある場所って」
「あ、ああ・・・おい、ジョー」
「なに？」
「どうしてここに？何も言わなかったのに・・・」
「聞いたんだよ」
「誰に」
「壁に耳あり、障子に目ありってね。日本のことわざだよ。知ってる？」
「あ、いや、知らんが・・・」
「来た」
何が、と問いかける間もなく、二人の所へ、先ほどタイラントを運んだ人力三輪車の青年が駆け寄ってきた。ジョーが親しい様子で話しかける。
「分かった？」
「ああ。あの男の子は警察にしょっぴかれちゃったみたいだな。翡翠の方はここだ」
青年がどこから入手したのやら屋敷の見取り図を差し出した。一箇所、赤くしるしがつけられている。
「恐らく、ほかのヤツもここだろう」
「そっちは頼む」
「あいよ」
事態が飲み込めず立ち尽くしたタイラントを見て、ジョーがくすりと笑った。
「ほら。行くよ」
「え？あ、ああ」
間の抜けた返事を聞くと同時に、ジョーがひらりと塀を乗り越えた。タイラントもすぐに後を追い、対人用の赤外線センサーと監視カメラの位置を把握しながら音もなく塀を飛び越える。
「おい、ジョー、これは犯罪だろ」
「うん。今のところ不法侵入だね。・・・君がやろうとしていたことと一緒だろ？」
「ま、そりゃそうだが」
先ほど見た見取り図にそってよどみなく進みながら、ジョーが答える。
「いいから。早くみんなの所へ行かないと、張大人なんか怒って火を吐くかもしれない」
「・・・みんなを待たせちゃいけないってところは、お前らしいけど」
どうもいつもと勝手が違う、とこぼしたとたん、ジョーが動きを止めてじっとタイラントを見つめる。
「僕の本性が品行方正だと思ったら、大間違いだよ」
ジョーがおどしとも取れる台詞だけを残して先を急ぎ、到達した扉の前でかがみこんだ。扉はもちろん施錠されていたのだが、ものの数秒で鍵の外れる音が聞こえる。
「ほら、開いたよ」
さ、いただくものはいただこう、とジョーが屋敷内に入っていく。タイラントがあっけにとられて頭を乱暴にかいた。
「・・・あんまりイメージ壊さないでくれよ」
「壊せばいいよ」
いくらでもね、とジョーが楽しげにつけたす。
見取り図にしるしのつけられた部屋で発見した隠し金庫は、いかにもお宝が入っていそうな重厚な作りだった。施錠はキーとダイヤル併用のオーソドックスなもので、それゆえに下手な小細工は通用しない。
「これを破るのはさすがに無理じゃないか、ジョー？」
タイラントが金庫の前にしゃがみこんで構造を調べているらしいジョーに、もう何が来ても怖くない！という開き直った口調で声を掛ける。
と。
「タイラントともあろう人が。何を言ってるんだい？」
それに答える隙さえなく。
がっ、と音を立てて金庫の扉は力で引き剥がされていた。見るも無残に壊れた扉を床に投げ捨て、ジョーが手際よく金庫内のものを、これまたどこから取り出したのか分からない丈夫な袋に詰めている。作業はものの数秒で完了した。
「さあ、行こう」
「あ、いや、お前・・・」
「急いで。面倒なことになるから」
難なく塀を乗り越え、屋敷の外側へ戻ると、そこにはジアンの姿があった。
「あっ、タイラント！」
名前を覚えていてくれたらしく、声と同時に指をさされる。
「な、ほら。俺の言うとおりだろ？」
少年の隣には人力三輪車の青年。
ジョーはたった今頂戴してきた、宝石その他がつまった袋を青年に手渡す。待ちきれないようにジアンがその袋に飛びついた。
「なあ、おれの翡翠はっ！」
青年が、まあまあと少年をなだめつつ袋の中身をあさる。
「これだろ？」
「あ！うんうん！そう、俺の！」
ジアンが受け取って、もう一度見つめてからポケットにしまいこんだ。さらに飛び上がって喜ぶ少年に、タイラントがたしなめるように声を掛ける。
「これにこりて、スリなんて止めとけよ」
「へへーんだ！」
ジアンが駆け出した。
「やーなこったい！」
そのまま行ってしまうかと思った少年は、姿が見えるぎりぎりの場所でくるりと振り返った。
「ありがとー！」
半ば怒鳴りつけるような声が確かに届いて、その場の三人が顔をほころばせた。
※
「じゃあ、残りの宝石はいただいておきましょーか」
少年の姿が見えなくなると、青年が歌うように宣言してから袋の口を閉じて肩にしょった。
「それ、どうするんだ？」
タイラントがいぶかしげに確認する。
「ぱーっと売りさばいて、ぱーっとやりますか！」
青年はおどけて提案した。ジョーがそれに呼応する。
「そうだね。ぱーっといこうか」
「ジョーまで、何言ってるんだ？」
慌てたタイラントを見て、ジョーと青年が顔を見合わせてぷっと吹き出した。
「な、なんだよ」
「冗談だよ。ちゃんと警察に持っていくって。全部盗品だから」
「ああ・・・？」
「おいジョー、こいつわかってないって」
笑いが収まらないまま、青年はタイラントに説明する。
「あのな、これは全て、リー・ウイリアムが非合法に手に入れた、つまりは盗品なんだよ」
「は？」
「だから盗まれても、盗難届けは出せないのさ。調べられたら逆に困るからな。まあ、これから警察に差し出すから、結局はばれるんだけどさ」
「まだ・・・わからない？」
ジョーがだんだん申し訳なさそうになる。青年は自慢げに大きく胸を張った。
「我輩の演技がそれだけ素晴らしい、ということさ」
演技？
「あっ・・・」
タイラントが思わず声を上げた。ようやくわかったのだ。
「００７か！」
「ご名答！」
人力三輪車の運転手からイギリス出身の元舞台俳優へと、まるで手品のショーのように姿を戻したグレートは、鮮やかにウインクしながらタイラントの遅すぎる慧眼を称えたのだった。
※
空にはすっかり月が浮かび、夜の空を支配していた。
「みんな待ってるから。急ごう」
グレートは正体を明かした後、リー・ウイリアムとなって袋に詰められた宝石を警察へ持っていった。去り際、「単に観光案内をする予定がえらい働かされちまったなぁ」と愚痴っていたが、人力三輪車に乗って登場したことから考えても、己の演技に対する相手の反応を大いに楽しんでいるのは間違いない。サービス精神旺盛の舞台俳優は警察でも手を抜かずに一芝居してくるのだろう。どんな演技を仕掛けたのか、後で聞いてみたいものである。
「ところで、何が始まるんだ」
話しかけやすい雰囲気だったので勢いで尋ねてみたが、ジョーはすまし顔で「ちょっとしたパーティさ」とかわした。
「それよりタイラント、遅刻の言い訳は考えたかい？」
逆に質問されて、戸惑う。
「え？ああ・・・道に迷ったってことにしとくよ」
「こんな月の明るい晩に？」
からかうように言って夜空を見上げたジョーの姿がタイラントの目に神々しく映る。じっと見入るタイラントの視線に気が付いたジョーが、しょうがないな、とつぶやいた。
「月って綺麗だけど、どこか孤独だよね」
また、話が飛んだ。本題から話をはぐらかされているのがわかるので、どうも落ち着かない。それでも、とりあえず言葉を探して。
「綺麗は綺麗だな。何て言うか・・・」
煌々と輝く孤高な姿は、どこかお前に似てる、と。浮かんだ思いは言葉にならない。
ジョーが少し考えこむ仕草を見せてから、ふっと表情を和らげた。
「ひまわりってさ、いいよね」
「ひまわり？」
「そう、ひまわり。夏だなぁって実感して、急にセミの鳴き声が響いてきて、プールの塩素のにおいと子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。すごく幸せだろ？」
ひまわりには特に思い入れがないので、同意を求められても困るのだが。
ただ、ジョーの弾む声があまりに恋焦がれるような響きだったので、タイラントは少し不安を覚えた。
「お前は今、幸せじゃないのか？」
これから、何か良くない事が起きようとしているのか。だからそんな風に、儚い夢を見るように話すのだろうか。
ジョーの返答は迷いも屈託もない。
「幸せだよ」
即答だった。ジョーの横顔からは、不安となる要素など何も見出せない。
「何でも一人で抱え込むのはたいがいにしとけよ」
心底を見極めきれないがゆえのあきらめの言葉が、静かなため息とともに吐き出された。とたんにジョーが顔をしかめる。
「タイラント、今の忠告はそのままお返しするよ。大体、君は笑ってても全部顔に出るタイプだろ。何か悩んでるんだって人を散々心配させて、よっぽど周りにストレスなの、自覚あるか？」
容赦のない反撃をくらい、タイラントが面食らった。
「・・・多分、分かってない」
「言いたいことがあるなら、そっちこそさっさと言えって」
ふと、言葉を切った。ジョーが顔を伏せて表情を押し隠す。
「僕が孤独になるから」
タイラントがはっとなる。
飛行機の中でずっと、ジョーがどうして自分を呼びだしたのかを考えていた。
困っていることがあるのか、手を貸して欲しい、そういう事態が起こっているのか、と。そして考えを否定する。ジョーは他人を巻き込んだりすることを嫌う。だから理由は別にあるはずで、結局、見当もつかないのだが。
ただ、再び会えたなら伝えようと思っていた。
「ずっと会いたかった。また会えてすごく嬉しい・・・よ」
搾り出した精一杯の本音に、ジョーが至福の表情を見せる。
「それは僕もさ」
※
ようやく到着した二人を、盛大なクラッカーが迎えた。
タイラントはすっかり度肝を抜かれ、え？という疑問を顔に浮かべて部屋にいるゼロゼロナンバーたちを見回した。最後にジョーの笑顔にたどり着く。
「君は何かというと悪いことばかりを考えるけど、友人たちと楽しい時を過ごしたいって、そういう大切な感情を忘れてるだろ。今日は、タイラントが僕たちの仲間になった日を記念してのお祝いをするんだよ」
言い終えるか否かで、張々湖がぷりぷりしながら部屋に入ってきた。手には料理が盛ってある皿をいくつも載せている。
「まったく、来るのが遅いアル！料理がすっかり冷めたアルよ〜！！！」
ぶおっと炎が宙を舞った。みんなが大笑いする。
タイラントはようやく事態を飲み込めそうだった。知らず知らず体中に入っていた力が抜けて、腰砕けになりそうだ。
そんなタイラントを、ジョーがみんなのいる食卓へと促す。
「おかえり、僕らの元へ」
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