それは、ほぼ相打ちだった。
何とか致命傷を免れられたのは、幸運だったと言える。
だが。
ぐらりと視界が回る。慌てて立て直そうとしても、身体は全く言う事をきかない。
地面、木、空、地面、空……
周囲の風景がめまぐるしく流れ去り、次の瞬間。
「……あぅっ……」
背中から地面に叩き付けられる。
その衝撃に、一瞬息が止まり、視界が激しくブレて。

静寂。

暫らくの間、気を失っていたのかもしれない。
不意に何かの気配を感じて、ふっと意識が戻る。
ゆっくりと目を開けば、目の前には翠の草。
その向こうに……人影。
未だ、敵が居た？
「……っ……」
咄嗟に全身に力を入れ、どうにかして起き上がろうと試みる。
だが、指一本動かせない。
こちらに近づいて来る人影を見つめる以外、何も出来ることが無い。
「ぁ……」
焦りながら食い入るようにその人影を見据えて。
次の瞬間、それが誰かに気付き、ふっと身体の力が抜けた。
自分を探している、その人影は……

「ジョーっ！ ジョー、どこだっ？」
必死で辺りを見回しながら歩いてくる、その人影。
僕はここだよ……と呼びかけたいのに、声を出す力が無い。
けれども。
まるでその声が聞こえたかのように、その人影がこちらを見た。
「ジョーっ！」
自分を見つけて駆け寄ってくるその人影。
それを見つめながら、００９は微かな笑みを浮かべて呟いた。
声にはならなかったけれど。

……迎えに来るのが遅いよ、君は。