「今は『ルシファー』と呼ばせてる。とりあえず、そういう事にしておいてくれ」

「職業か。そうだなぁ……。ま、『中東基地の番犬』ということで、いいか？」

「『飼主』様の命令とあらば、何とでも。もっとも、俺自身が戦っているモノは、それとは別だが……まぁ、それはいいだろ？」

「番犬の身なんでな。これも『飼主』様次第だ。もっとも、俺にやらせなきゃならないような事が、そうそう次から次へと出てくるようじゃ……。まぁ、俺としては、そうなって欲しいところだがな」

「無論だ。とはいえ、今の俺はサイボーグだからな。トレーニングの内容は、生身の頃とはかなり違う。サイボーグにとって重要なのは、自分のサイボーグ体をどう使うか、そのイメージだ。それを作るには、生身だった頃の感覚やクセが邪魔になる。だから、いかにそいつを捨てて、このサイボーグ体の性能に最適な動きのイメージを作るか……。それを考えるのが、日々の主なトレーニングってやつになるな」

「覚えてないなぁ。物心ついた頃から、かな」

「多い方なんじゃないか？ 多分な」

「戦略戦術は父、戦闘の実技は母。あとは実戦、だな」

「どのくらいの怪我が『大きな怪我』になるんだ？ 戦場から自力で帰って来られないくらいを言うんなら、それは無いな。弾に当たって、自分で抉って取ったりした事もあるが、その時だって一応は自力で帰ったからなぁ……。ま、流石に帰り着いてから、３日くらい起きられなかったが……」

「どうなんだろうな、これは。気分的には負けっぱなしだが、任務を失敗したことは無いし……。とはいえ、敵に捕まりゃあ、負けか。とすると、答えは『ある』になるな」

「ある。数え切れない程な」

「まあな。何しろ処刑されたからな。殺されかけたというか……殺されたというのか、あれは」

「そんなの、しょっちゅうだ。一対多数じゃない時の方が珍しいな」

「そりゃあるさ。こっちだって警戒はしているが、敵だって必死だからな。時には不意打ちを食らうことだってある」

「これも、しょっちゅうだな」

「今はサイボーグだからな。遠くまでよく見えるし暗くても困らない。まったく便利なもんだ。まぁ、生身の頃も、夜目は利く方だったがな」

「Neo Black Ghost の技術力の成果だからな、生身の人間に比べりゃ優れてるだろ。もっとも、現存するサイボーグの中では平均よりちょっと上って程度の筈だ。生身だった頃は、どうだったかなぁ。ま、隊の中じゃぁ、上位三人には入ってただろうと思うが、一番じゃなかった。そんなトコロだ」

「強いんじゃないのか？ 何しろ、未だ死んでない」

「必要に応じて何でも使う。昔も今も、使う頻度が一番多いのはナイフだな。音も出ないし、弾切れなんて事も無い。そりゃ、投げちまったり刺したままにしちまったら別だが、予備も含めて何本か持ってりゃ大概は事足りる。昔は用途別に長さ違いをいくつか持つようにしてたんたが、サイボーグってのは色々と便利でな。武器の選択ひとつ取っても、生身に比べて制約が遥かに少ない。そんな訳で、今は、加速装置対応の特殊鋼のやつが使い勝手がいいんで、そいつを十本くらい持って歩いてる」

「そりゃまぁな。格闘戦は基本中の基本だぞ。これが苦手なようじゃ困るだろ」

「ある。『飼主』様がデモンストレーションで使えと言ってくる、妙な新兵器とかな」

「ない」

「まぁ、それなりには」

「………。ちょっと色々ありすぎるんでな。これは、訊かないでくれないか？」

「当然だろ。無策で突っ込むヤツがあるか」

「無い」

「無いな」

「いや、別にいない」

「………印象深い…ねぇ。生身で戦った一番最後の時…かな。何も考えず、目の前の敵だけ見てりゃ良かったってのは、あの時だけだからな、今のところ」

「生きるため。俺が俺自身として生きるためだ。それ以外に何がある？」