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サイボーグナンバー００２こと、ジェット・リンク。
彼は、はっきり言ってナイス・ガイである。ほかに彼を形容する適切なことばは見つからない。
ニューヨークの下町育ちで、不良のアタマだったジェットが、なぜナイス・ガイなのか？
答えは、まさにそこにあるといっていい。
治安の悪いニューヨーク・ダウンタウンで青春期をすごした彼は、多分に漏れず、不良グループのメンバーとなり、やがてはボスへと昇格する。
【注：原作では、この不良グループは「ＪＥＴ団」という、じつにストレートなネーミングだっ たが、ＴＶ版新作（以下新ゼロ）では「ブルーローズ団」になっている。本文では、混乱を避けるために、特定の名称は使用せず、不良グループと表記する】
このあたりの事情には、同情の余地があるだろう。
彼の家族構成については、詳細が明らかになってはいないが、捨て子だったらしい。
彼は幼くして保護者を失い、自力で生きていかなくてはならない環境下に置かれたのだ。そのような生い立ちが考えられる以上、彼の不良化は、遊び的なものではなく、生きて行くためのやむをえない手段であったのだろう。
まして、治安の悪い地域である。一種の生活の智恵とも言える。
弱い幼い者たちが、身を守るために寄り集まり、組織を形成して行く――こういった状況が、ことに新ゼロ１６話「ウェストサイドの決闘」エピソードから読み取れる。
このなかで成長していったジェットは、グループのなかで生きるために必要な、さまざまの掟を学ぶことになる。
こういう組織のなかでは、往々にして腕っぷしの良さ、面倒見の良さなどが評価される。
ジェットも、グループのなかでそのような「勇者」を見、彼らの影響を受けて育ったであろうことは想像に難くない。
自然と、けんかの実力や度胸などに対する価値観が備わってゆき、さらには実践するようになったと思われる。
それは同時に、かっとなるとすぐさま行動を起こしてしまうという、別の側面も育てる結果につながりやすい。
彼は、しょっちゅうメンバーにつっかかったり、敵との遭遇で、真っ先に切り込んだりする。
彼にとって、勢いと度胸は重要な要素であり、環境が変わったていどでは、簡単に矯正することはできない、人間性の根幹にしっかり根づいた深い意識といえるのではないか。
とはいえ、彼の気の短さは、かならずしも彼独特の価値観を満足させるためだけのものでもない。
その裏には、友人に対する気遣いの厚さも存在している。
上記で挙げた、ウェストサイドの決闘のエピソードでは、ラストで、彼のかわりに怪我をした友人へ、輸血を頼まれるシーンがでてくる。
このとき、ジェットは苦悩の末、輸血を拒否するのだ。
周囲は、彼がサイボーグ化されているという特殊事情を知らないため、冷酷だと誤解する。
だが、ジェットは一切反論しない。
じつは……と切り出せば、みなわかってくれたであろう。幼い頃からの友人関係をもち、彼が突然失そうしたことに対しても、心配こそすれ、罵ったり悪く思ったりなど、誰一人しなかった不良グループのメンバーたちである。
よく話し合いさえすれば、むしろ、ジェットのつらい心境に理解を示し、深く同情さえ寄せてくれたに違いない。
にもかかわらず、ジェットは沈黙を守る。
おもな理由としては、望みもしないのにサイボーグ戦士となった、いやされた自分を恥じる気持ちが強かったからだろう。
「サイボーグと知られるよりは、憎まれたほうがいい」
と、ジェット自身も語っている。
しかし。
その裏には、友情にかかわるふたつの理由も存在する、と私は推測する。
友情に篤いジェットが、「サイボーグ化された自分を恥ずかしく思う」などという、一身上のつごうだけで、昔の友人たちとの絆をすぱっと絶ちきってしまうとは思えない（というか、思いたくない）。
ひとつには、ジェットの恋人だったナタリーへ、親友が心を寄せていたという事実に、おそらくジェットが気づいたからだろう。
すでに生身の体ではなく、新たな敵との遭遇も頻発している、緊張感に満ちた時期にあるいま、元の生活には戻れない、と覚悟を決めていたに違いないジェット。
そんな彼にすれば、ナタリーの幸福を願うとき、信頼の置ける誰かとめぐりあって欲しく思うのは不自然ではない。
そんなおり、彼女にひそかな想いを寄せつづける親友の存在に気づけば……。
ジェットは、みずからを悪役とすることによって、ナタリーに踏ん切りをつけさせ、身近にある新たな幸福の可能性を、心置きなく追求できるよう、道を拓いてやろうと考えたのだろう。
同時に、友人への、せめてもの恩返しを果たすためにも。
いまひとつは、彼がいま友と呼ぶべき存在は、００メンバーたちであるとの認識を、あらたにしたことがあげられるだろう。
いつ終わるともしれない戦いの日々に生きる戦士である以上、ジェットの周囲には常に敵の存在がある。敵にしてみれば、彼を倒すために手段を選ぶ義務などなく、利用できるものならなんでも利用しようと考えて当然であろう。
このような危険は、ジェットの意思にかかわらず、彼の周辺へ否応なしに迫ってくる。
戦士ではない者にとって、それはあまりに大きな負担である。
ジェットが、そのような迷惑を周囲にかけないよう配慮するためには、ひとつしか方法はない。
つまり、彼らと一切の接触を絶ち、自分とはまったく関係のない人々、ジェットの敵にとって利用価値がない集団、という位置付けを、彼らにほどこすのだ。
幼い頃から身を寄せ合い、助け合い、手を差し伸べあって生きぬいてきた友たちを、友として大事に思うならば、彼らを「友」と呼んではならない。ジェットには、辛い現実だったであろう。
だが、そうでなければ、誰よりも彼ら旧友たちが困るのだ。ジェットは、だからおのれの苦痛を圧して、仲間から離れて行く。
そのとき、彼の心の支えになったのは、同じように戦いの日々を送り、そして力を合わせて戦ってゆける能力をもった現在の仲間たち。００メンバーズだったに違いない。
この仲間が、かつての友人たちがジェットに与えてくれた連帯意識、相互互助の喜びを、もたらしてくれる。自分はひとりではない。その認識は、親友への輸血要請を、沈黙で拒否した自分の姿を、黙って見守ってくれていたジョー、フランソワーズ、アルベルト、ブリテンらの視線を感じたとき、ジェットの中に生まれていただろう。
００メンバー中、誰一人として、輸血を拒んだジェットを非難する者はなく、また「なぜだ」と無粋な質問を浴びせる者もいなかった。
それは、ジェットにとって、このうえもない友情の表現だったであろう。
言葉に託さなくてもわかりあえる間柄の者たちが、ちゃんと背後にいる。その場に居合わせた四人は、ジェットへ無言のメッセージを送った。そしてジェットは、そのメッセージを正確に受け止めた。
だからこそ、ジェットは古い友人たちときっぱり決別し、また恋人を親友へ託す決意もできたのだろう。彼一流の気ぜわしさで。
仲間と友情。これはジェットを語るうえでは、はずせないキーワードだと思う。
無目的で群れる不良集団出身とはひとあじ違う、情熱をともなった友情のなんたるかを知る男。それが、ジェット・リンクだと、私は思う次第である。
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