誕生

マシンガンの一連射。
ひと呼吸おいて、重い爆音が轟く。
ロボットが…一瞬前まではロボットであった残骸が…紅蓮の炎に包まれて。
その様子を視界の端に捕らえつつ、彼は、油断無く周囲を見回した。
だが、敵らしいモノは見当たらない。
（どうやら……）
片付いたか？と思った、その瞬間。
背後から、聞き覚えのある着地音が耳に届いた。
同時に、声。
「どーやら片付いたみたいだな、００４」
「…００２…？」
振り返ったそこに居たのは、ド派手な赤の戦闘服が似合いすぎる青年だった。
黄色いマフラーが、焦げ臭い風に、ふわりとなびく。
それを見遣り、彼…００４は、思わず呟いた。
（…何度見ても…イカレた格好だな……）
もっとも、自分も同じ服を着ているのだから、他人の事をとやかくは言えないのだが。
苦笑。
（……そんな事を考えている場合か…）
我ながら余裕じゃないか…と思い、そして、首を振る。
（…違うな……）
関係無い事に気をとられるのは…気をとられているふりをするのは…それは……
（それは、恐怖を…ごまかす為、だ）

そう。
自分は恐れているのだ。
『００４』の持つ、『力』を。
圧倒的なまでの破壊を可能にする、『力』。
一個中隊は居ようかというロボット達を、いとも簡単に鉄屑へと変える、その、『力』。
無論、それを使ったのは、今が初めて…という訳ではない。
これまでに何度も、『実験』という名のもと、命ぜられるまま、この『力』を使ってきた。
しかし。
今さっき成し遂げた、この破壊は、違う。
命ぜられての事では無い。
他ならぬ自分自身の意志で、行った事なのだ。
自分と、そして…と、００４は目の前に立つ００２を見遣った。
（…仲間…の為……に…）
今、初めて、自分の意志で自分の『力』を使った。
恐るべき、この、破壊の力を。
それが……。

「なにジロジロ見てやがんだよっ」
気持ち悪いなぁ～…という声に、００４はハッとした。
「……あ…」
「んだよっ」
むっとしたような００２の表情が、あまりにも子供っぽくて、思わず笑ってしまう。
「いや……」
くくくっと笑いを噛み殺し、言葉を継ぐ。
「…いつ見ても、イカレた格好だ…と思ってな」
「なっ……なんだよなんだよなんだよっ！自分だって、同じ格好してるじゃねーかよっ！」
ムキになって言い返す００２に、００４は軽く肩をすくめてみせた。
「自分の格好は、見えないからな……だから、いいんだ」
「…はぁっ？ ……なんだそりゃ～っ？」
納得いかねぇぞっ…と、ぶつぶつ言う００２を見つつ、００４は低く想う。
（……そう…自分には自分が見えない。俺が、この『力』を自分の意志で使って…それが、とんでもない間違った使い方だったとしても……）
自分には、分からないのだ。

有無を言わさぬ破壊の『力』。
もし、自分が間違っている事が分からないままに、その『力』を使ってしまったら？
ただただ破壊を撒き散らす、それだけの存在になってしまったら？
（……それが…恐い……）
だが。
目の前に立つ００２を見る。
そして、先行している仲間達を想う。
（……大丈夫だ……）
自分は、ひとりではない。
共に戦う仲間達が居る。
未だお互いを良く知らない、仲間達。
おそらくは、何もかもが異なるであろう、仲間達。
ただ、『生きた兵器』であるという、その一点だけが共通する、仲間達が。
『こんなヤツラの言いなりになったままでいる…ってのかよ？』
『他人を勝手に“実験体”とやらにしちまうヤツラの？』
『何が正しいかなんて、そんなコト知るかっ！でも、これ以上ここに居て、ヤツラの言いなりになり続けるのは、俺は嫌だ』
ひとりで漠然と考え続けていた事を、ハッキリと言葉にしてくれた。
そして。
『行こう、一緒に……』
考える時は、もう、終わったのだと。
今は、行動に移る時だと。
未来を、自分達の手で、切り開くのだと。
そう言ってくれた、仲間達。
『それが、“人間らしい”生き方ってヤツだろ？』と。

つと背後を見遣る。
そこには、黒煙のたなびく破壊のあとがあった。
自らの手で、自らの意志で、自らの『力』を行使した、その結果が。
だが。
これまでに何度も行わされた『実験』。
その後のような、虚ろな思いは、今は、無い。
世界が、現実感の伴わない無彩色に見える事も、無い。
あるのは、ぞっとするほどに生々しい、生と死の感触。
（…考えてみれば……）
自分の『力』を、恐ろしい…と想ったのも、今が初めてかもしれない。
（……なるほど…）
と、００４は呟いた。
自分は、今、目覚めたのかもしれない…と思う。
『あの日』以来、初めて。
（つまり、『００４』は、今、誕生した…という訳だ）

「行くぞ、００２」
くるりと踵をかえし、００４が歩き始める。
それを、００２が慌てたように追いかけて。
「ちょ…チョッと待てよ、なにイキナリ歩きだしてんだよ、俺を置いてくなよっ！」
「お前こそ、何をグズグズしてるんだ」
「何を…って……」
ボーっとそこらを見てたのは、そっちだろ！と００２が言う。
それに構わず、００４は言葉を継いだ。
「…うるさい追手は片付けたし…まぁ、どーせまたゾロゾロ来るだろうがな…とにかく、今のうちに皆と合流するぞ」
急げ…と走り出す００４を、００２が追う。

仲間達のもとへ向かって、二人のサイボーグ戦士は、荒地を駆ける。

「…来たわ…ふたりとも、無事よ……」
岩の上に立ち、山の向こうに目を凝らしていた００３が、ほっとしたように言った。
その言葉に小さく頷き、そして、００１が一同に宣言する。
「……ソレジャア……ハジメヨウ。……最後ノ仲間…００９ヲ目覚メサセ、ココヘ呼ボウ……」
「来る…かしら……？来て…私たちと一緒に、戦ってくれるかしら？」
００３の呟きに、００１は静かに答えた。
「…心配イラナイ。大丈夫ダヨ、００３……彼ハ仲間ダ………」
必ず、来る。
「僕達ハ、同ジ運命ノ糸ニ、繋ガレテイル」
さぁ、始めるよ…という００１の声に、全員が頷いて……

……目ヲ…覚マセ………目ヲ…覚マスンダ……！

そして、長い戦いが始まる。

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