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Go! Nude! Go!
2000/05/14 作

「え?」
フランソワーズの言葉に、ジョーの動きが止まった。
(ぬ…ぬぬぬー……)
その先が言葉にならない。
「ジョー?」
硬直しているジョーに、フランソワーズは小首を傾げた。
「ねぇ、ジョー。どうかしら? そりゃあヌードを撮る事が多い人だっていうのは、私だって知ってるわよ。でも、今回のお話は、そういう事ではないのだし」
青い瞳が自分をじっと見る。普段だったら思わず見とれてしまうところだが、今はそれどころでは無かった。
(そんなそんなそんなそんなそんなことっ!!!)
良い訳が無い。
そういう話もこういう話もどういう話も無い。
(駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!)
そのカメラマンの噂なら、ジョーだって知っている。最初はどんなに相手が拒絶しても、最後には必ず脱いでしまう、というほど、業界では『脱がせ上手』で通ってるとか。
自分だって知ってるくらい有名な、超『脱がせ魔』なのだ。
(それにそれにそれにそれにそれに〜)
フランソワーズは『今回の話はそういう事では無い』と言っているが、それはそうだろう。最初から『ヌード撮らせて下さい』なんて言ったら、引かれてしまうに決まってる。
いくらフランソワーズだって、そういう話だったら速攻で断ってる……筈だ。
だから、最初から正面切って言ってくる筈は無く、だとするとフランソワーズが知らないだけで、裏では『そういう話』なのかもしれないのだ。
(そうだよそうだよそうだよそうだよ。そーだったらどーするんだよっ)
普段はお人好しで他人を疑ったり勘ぐったりしないジョーだって、ことフランソワーズの事となると、話は別だ。しかも、かかっているのはフランソワーズのヌード! これで真剣にならない男が居たら見てみたいものだ。
(そうだよフランソワーズの……ぬぬぬ………)
赤面。
(ととととと、とにかくっ!)
そんなモノを何処の誰ともしれない(いや知れているのだけれど、それはこの際、問題ではない)男に見せる訳にはいかない。まして、写真に撮られるなんて、許し難い。
最早、ジョーの思考は暴走状態だった。
(フランソワーズの…………かぁ……)
思わず想像してしまう。
(………)
わたたたた…とジョーはその妄想を振り払った。
と、その時。
「ジョー?」
沈黙したまま、ボーっとしたり赤面したりしているジョーに、流石に心配になったフランソワーズが声をかける。
「大丈夫?」
ハッとしたジョーの視界に映ったものは、接近戦距離にある、青い瞳と珊瑚の唇。勿論、フランソワーズの。
それが0.5秒前の妄想と重なる。
その途端。
完全なパニック状態に陥ったジョーは、思った通りの事を口走っていた。
「そりゃ…君なら、何も着なくってもキレイに決まってるよ」
しーん。

天使、通過中。しばらくお待ち下さい。

「ジョー…?」
フランソワーズが二三度瞬きして言い、その瞬間、ジョーはわれにかえった。
(あ……)
自分の台詞を思い返し、ささーっと血の気が引くのを感じる。
聞きようによっては、いや、聞きようによらなくても、ヌード肯定と取れる台詞。
(ああああああああああああああああああああああああああああああ)
が。言ってしまった台詞は引っ込めようが無い。
フランソワーズは何も言わない。
冗談だよと言おうにも、何が冗談なのか? 『何も着なくてもキレイに決まってる』とゆーのは本心だから冗談だと言うのもなんだし、だいたい、その台詞を冗談だと言ったら、何か別の問題が発生しそうな気がする。
要は、文脈の問題な訳で。
(かかかかかかかかかかかかかかかそくそーっちっ!!!!!!!!)
逃走。
とりあえず、ジョーに出来る事はそれしかなかった。
それでいいのかは、この際、ともかくとして。


(ばかばかばか、僕のばか〜)
研究所近くの浜辺で、ジョーは海に向かって吠えていた。
「駄目だ駄目だ〜! 絶対駄目だああああぁぁぁぁっ」
海のばかやろーモード全開。
だがしかし。
ここで叫んでいてもどうしようもない。
あまりの事に思わず逃げてきてしまったが、逃げてる場合では無い。
(どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう)
「君の…君の………君の〜」
「誰かに……見せるなんてっ!」
「そんなことわっ!」
「ああああああああああああ! どーしよー!!!!!」
「駄目だ駄目だ駄目だっ! そんな事、駄目だっ」
などと海に向かって叫んでも仕方が無いのだが、とりあえず叫んでしまうジョーであった。


一方その頃。
「あ……」
はっと気付いた瞬間、ジョーの姿は目の前から消えていた。
「…もう、ジョーったら」
逃げたわね、と苦笑する。
溜め息。
「あーあ」
(ヌード写真を撮られるかもしれないってなったら、流石のジョーもキッパリ『嫌だ』とかって言ってくれるかと思ったんだけど……)
駄目だったわね、と苦笑する。
そしてフランソワーズは『目』と『耳』を使って、ジョーを探した。

程なく、海に向かって必死の説得(?)をしているジョーを見つける。
(ホントにもう……)
海に向かって言ってないで私に言って欲しいわよ、と思う。
と。
今まで部屋の隅で寝たふりをしていたイワンが、揺りかごごとふよふよと浮かびつつ、話しかけてきた。
<ホント ハ モウ コトワッタンダッテ じょー ニ オシエテ アゲナイノ カイ? ふらんそわーず>
「そーねぇ……」
イワンの言葉にフランソワーズが首を傾げる。
「言ってもいいんだけど……」
でも、もうちょっと待ってみるわ、とフランソワーズは言った。
「だって、やっぱり直接ジョーから『嫌だ』って言って欲しいし……」
<ムリ ダト オモウ ケド ………>
イワンの予言はいつだって正しい。


三日後。
あれ以来、何処へ行くにも『こっそり』付いて歩くジョーにすっかり脱力したフランソワーズは、ジョーに事実を明かした。
(まぁ……一応『実力行使に出た』と考えられなくも無いかしらね)
そう思い、フランソワーズは納得する事にしたのだった。


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