Act.4 接敵− セッテキ−

  − Scene 4 −  

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(ぅわぁー……)
同じ小隊の同じ班に属する数人の兵士達と共に医療センターへと足を踏み入れたところで、タイラントは思わず息を呑んだ。
周囲を埋め尽くす兵士達の群れ。飛び交う叫び声。騒然とした中にも緊迫感が漂うその有様は、さながら野戦病院だとタイラントは思う。
(……噂通り、いや、噂以上の状態……だな、これは……)

ここ数日、中東基地は一斉点検の話でもちきりだった。
どこの部隊にも居る、『情報通』達が、先に点検の終わった小隊の者達から話を聞き出してきてはアレコレと触れ回っていたし、待機の時間が一緒になった小隊の者同士、警備の交代相手の小隊の者同士など、とにかく、誰も彼もが寄ると触るとその話ばかりだった。
その為、自分の小隊の順番になるのを待つ間、同じ班の者達と一緒になって噂話に耳を傾けていたタイラントは、医療センターの有様やら点検の内容やら、ウィッチについての話やらを山ほど聞いていた。
それ故、ある程度ではあっても、医療センターの状態がどういうものかは予想できているつもりだったし、その予想を元に、ウィッチと会ったらどうやって話をするか、あれこれと考えを巡らせた……つもりだった。
だが。
(……うーん……)
半ば呆然と辺りを見回しながら、タイラントは途方に暮れる。
(こんな状態……なんだ……)
勿論、全サイボーグを対象とした一斉点検なのだ。尋常ではない人数が医療センターに詰め掛けることになるのは容易に予想できる事だったし、噂話でも、まず話題に上るのは医療センターを出入りしている人数の物凄さで。だから、タイラントもそれなりの状況を予想してはいた。
(……にしたって、なぁ……)
これは、想像を遥かに超えている。
(まぁ、全員の診察をウィッチが直接してる……ってのは、どうやら間違いない話みたいだし、会えないって事は無いだろうけど……)
人混みの凄さの次に必ず話題に上ったのは、医療センター長自らが全員を直接診察してくれるという話で、それが本当の事なのかどうかについては、誰も彼もが極めて大きな関心を寄せていた。勿論、タイラントも、他の者達とは全く別の意味でその話題には特に注意を払い、警備の任務を放り出して噂話に興じる班の者達と一緒になって、熱心に話に加わった。
そうやって集めた情報を総合すると、問診や性能テストの結果に関わらず、全員の診察を医療センター長たるウィッチがしているというのは、まず間違いないようで、従って、少なくとも、ウィッチに会えずじまい、という事だけは無いと思われ、それについては、一応、安心していた。
とはいえ。
(会えればいいって訳じゃ、ないからな……)
いったいどういう経緯でウィッチがここに来たのか? 009達の状況はどうなっているのか? これからどうするつもりなのか? 訊きたい事、訊くべき事は沢山ある。また、自分がここに来た経緯や、今後の心積もり、脱出の計画(と言っても今のところは全くの白紙状態なのだが)等々、伝えるべき事も山程ある。
(どのくらい、話をする時間があるか……)
相手にする人数が人数だから、ひとりひとりに割いている時間は、恐らく、かなり短いだろうと思われる。その辺りについて何か手掛かりが得られないものかと色々聞きまわったものの、これについては噂話の内容もまちまちで、二言三言の会話の後で『問題無し』と言われただけだったという話もあれば、何やらヤヤコシイ説明を延々聞かされたという話もあり、当人の主観と噂に付いた尾鰭があいまって、実際にどの程度の時間を個々の診察に当てているのかは、さっぱり判らなかった。
(結局、それぞれの状態によりけり、なんだろうけど……)
いずれにせよ、悠長に話をする程の時間が無いだろう事は想像に難くない。
(けど、この機会を逃したら……)
一般の兵士が医療センター長に会うのは、余程の事が無ければ、難しい。目立たずに会う事など、不可能と言ってもいい。だから、この一斉点検は千載一遇のチャンスなのだ。どうあっても、無駄にする訳にはいかない。
それ故、タイラントは色々と悩んだ末に、一応の作戦を考えてきていた。

その作戦とは。
問診票の記入時間を使い、出入りする人に紛れて医療センターの奥へと行ってウィッチを探し、こちらの姿を見せるなりして、まずは、自分がこの基地に居るのだという事を先に知らせる。そうすれば、ウィッチの方が、精密検査にかこつけるなり何なり、自分と話をする為の、何らかの口実を作ってくれるだろう。他力本願ではあるが、しょせん一般兵士に過ぎない自分には何の権限も無いのだ。となれば、医療センター長であるウィッチの方に動いて貰うのが、一番てっとり早い。
聞き集めた噂話によれば、問診票を記入してからの待ち時間はそこそこ長いらしかったし、医療センターの奥へは、かなりの人数が頻繁に出入りをしているという事だった。従って、そういった人の出入りに紛れるのは可能だろうと思われたのだ。医療センター内でのウィッチの居場所も、診察室かセンター長室か、大方そのどちらかだろうし、また、大勢の兵士が医療センター業務の手伝いをしているという話だったから、そういった役目をしている者のフリをして居場所を訊くのでもいい。とにかく、中に入ってしまいさえすれば、あとは何とかなる。そう考えていたのだ。
しかし。
それが甘すぎた考えであった事を、今、タイラントは痛切に感じていた。



(うー……)
渡された問診票入力用の端末を片手に、回答を考えるフリをしながら辺りを見回して、タイラントは内心で唸った。
(人が、多すぎる……)
人波に紛れて行動するには、ある程度の混雑は願ったりなのだが、そうは言っても、ものには限度がある。
(……しかも……)
一見すると混乱を極めているようなこの場には、よくよく観察してみれば、明確な秩序があった。

医療センターのエントランスであるその室内は、目に見えないラインによって幾つかの部分に区分けされていて、混乱しているように見えるのは、その各々の区画の中に限定されていた。それによって、医療センターへの出入り口や、各々の区画、そして奥の扉への動線は、キッチリと確保されているのだ。
その見えないラインを維持しているのは、肩の部分に数字の書かれた色テープを貼った兵士達。扉の左右や室内の要所要所に数人ずつ配置されたそれらの兵士達が、各区画内の人の動きに目を配り、流れをコントロールしている。どこかに隙が無いものかと伺っていても、兵士達は皆、異様なまでに士気が高く、だらけた様子など全く見られない。
(これは……)
野戦病院というよりも、むしろ、最前線の作戦司令部だ。
(ウィッチって、前線指揮官の才能、あるんじゃないのか?)
しみじみと思い、けれど、呑気に感心している場合では無い、とタイラントは焦る。
(どう…するよ……?)
自分がこの基地に居る事を事前にウィッチに知らせる事ができれば、検査の間にタイミングを計って話をする時間が取れるように手を打って貰えるだろうと考えていたが、これでは、ちょっと人に紛れて奥へ行ってウィッチに姿を見せて来るなど、どう考えても無理だ。
(これはもう、出たとこ勝負しか、無いか……)
自分の診察の順番になれば、ウィッチに会えることは間違いない。だが、そうなったとして、どうするか? また、ウィッチがどんな反応をするか? それは、どうにも予想がつかない。
(……びっくりする、だろうな……)
勿論、動転して迂闊な言動をするような事は無いだろうが、しかし、事前情報が全く無い状態で、いきなり自分が一般兵士の一人として目の前に現れたらば、相当に驚くだろう。
とはいえ。
(もう今回は、俺がこの基地に居るってのをウィッチに知らせられれば、それで良しとするしか無い、か)
この一斉点検は願ってもないチャンスではあるものの、同じ基地内に居る事が判れば、接触するチャンスを作ることは、難しい事は間違いないものの、不可能という訳では無い。
(……よし)
何もかもを一度にするのは無理だ。となれば、まずは最初の一歩。
素早く気持ちを切り替え、タイラントは大きく息を吐いた。



(来たわね……)
検査対象者リストを確認していたウィッチは、『問診票へ回答済』というステータスが示されている者達の中にタイラントの識別番号があるのを発見し、内心で小さく頷いた。
(……概ね予定通り、といったところかしら)
タイラントが来る前に諸々の下準備や事前の根回し等をしておきたかったから、それが終わる前にタイラントの所属する小隊に検査順番が回らないよう、状況を見ながら幾つか手を打ってきたのだが、それが功を奏したと言って良いだろう。
(エントランスの兵士達も、ちゃんと仕事をしているようだし……)
まずは計画通り。そう考え、ウィッチはひとつ息を吐いた。

ウィッチが己の計画通りに事を運ぶための最初の(そして最大の)課題は、どうやってタイラントを思惑通りに動かすか、だった。通常であれば、事前に何らかの方法で相手にこちらの計画を伝え、それに沿って動いて貰うようにするのが最善の策なのだが、今回の場合、二つの理由でその手段は取れない。
ひとつ目の理由は、勿論、タイラントと連絡を取るのが困難であること。そもそも、この計画の第一目的がタイラントと連絡を取る事なのだ。連絡を取る為の計画を事前に連絡しようとするなど、本末転倒、鶏と卵、考えるに値しない。
ふたつ目の理由は、相手がタイラントであること。およそ謀に不向きなタイプのタイラントだ。もし仮に予め計画を報せる事が出来たとしても、それに沿って一芝居打つことなど全く期待できない。それどころか、事前にこちらの思惑を報せようものなら、不自然な挙動をした挙句にボロを出し、計画を失敗させてしまう確率の方が圧倒的に高そうに思える。
となると、この場合の最善策は、こちらの思惑通りに動くしかない状況へとタイラントを追い込むこと。それがウィッチの出した結論だった。

さて。
そうと決まると、次の問題が出てくる。それは、果たしてタイラントが事の経緯をどこまで把握しているのか、という事だ。
自分がこの基地に居る事や、その経緯。また、タイラントがこの基地に居ることを自分が知っていると判っているのかどうか。ようするに、タイラントは、一体、どの程度の情報を手にしているのか。
ルシファーに『タイラントを拾ってきた』と聞かされて以来、ウィッチはそれについて色々と考えを巡らせていた。
勿論、現時点でのタイラントは、自分が医療センター長となった事を知っているだろう。何しろ、一斉点検実施の通達と共に、医療センター長の交代についても通達が出されている。それら公式の通達と、兵士達の間に出回る非公式な噂話との両方から、自分が(経緯はともかくとして)今現在、この基地の医療センター長である事は、判っているだろう。
だが、その他の点については、どうなのだろうか。自分が誘拐された事を知った上でこの基地へ来たのか。こちらの状況をタイラントはどこまで把握しているのか。それによって、タイラントがどう動くかの予想は大きく異なるし、当然、タイラントを思惑通りに動かす為に打つべき手も変わってくる。
とはいえ、これを推測する為の情報は、皆無と言っていい。
ウィッチに判っているのは、結局のところ、ルシファーがタイラントを連れて来たという、ただそれだけなのだ。
となれば、そこから推測するしかない。
つまり、ルシファーは、タイラントにどこまでの情報を与えたのか? という事だ。より正確に言うならば、どういう情報を与えれば……あるいは、与えなければ……タイラントが大人しくルシファーについて来るのか。
そこを考えれば、自ずと結論は一つになる。
ようするに、タイラントは何も知らない。自分がこの基地に居ることは勿論、自分を攫ったのがルシファーである事も、何も知らぬままに、タイラントはこの基地へやって来たに違いない。
何故ならば。もしタイラントがそれを知れば、間違いなくルシファーを『敵』と認識するだろう。仮に00ナンバー達の誰かが相手であれば、自分を捕らえていると告げて言う事を聞かせるという手もあるだろうが、タイラントに対してそんな手は通用しない。Neo Black Ghost の残党やそれに類する者達にとっての『ウィッチ』の価値を、そういった輩にとって『ウィッチ』は絶対に危害を加えられないモノである事を、タイラントは十二分に理解している。
従って、もし、ルシファーが自分の誘拐をタイラントに告げていれば、最早、どんな交渉も成立しなかっただろう。
だが、タイラントはここに居る。ルシファーとの間に一体どんな交渉が持たれたのか、どんな思惑があって交渉に応じたのか、それは全く判らない。しかし、何はともあれタイラントはここに来た。ルシファーの思惑通り、単なる『組織の備品』として。
という事は、タイラントが自分に関する一件について何も知らないままこの基地に来た可能性は、極めて高い。
そしてそれは、ウィッチにとっても都合の良い状況だった。相手の持つ情報量が少なければ少ないほど、相手の知らない情報を持っていれば持っているほど、行動を予想するのは簡単だし、思惑通りに動かすのも容易だからだ。
当然の事ながら、そんな事などルシファーは百も承知だろう。

こういった諸々を考え合わせれば、結論は自明。そして、打つべき手も明らかであった。



タイラントを思惑通りに動かす。その為にウィッチが最初にしたのは、検査に来た兵士達との区別がつくよう、医療センター業務の支援をしている兵士達の肩に色テープを貼らせる事だった。色テープを貼ってナンバリングをし、誰が何処で何の業務を支援しているのか、それが常に明確になっているよう、管理を強化させた。
次に、エントランスで受付や問診票の記入方法の説明をする兵士達の人数を増やし、室内を幾つかのエリアに分けて、医療センターへの出入りの動線を確保するよう命じる。それによって、検査の順番になった者の呼出と確認とが速やか、かつ、厳密に行えるような状態にせよ、と。
これらの指示の表向きの理由は、一斉点検の迅速化の為であり、勿論、そういう効果も当然あった。
だが、ウィッチがそれらの指示を出した本当の理由は、検査の順番になるまで、タイラントが自分に接触できないようにする事だった。

情報を殆ど持たないタイラントは、当然のことながら、この一斉点検を利用して自分に接触をしようとするだろう。
医療センター長である自分が兵士達ひとりひとりを直接診察しているという事は、敢えて宣伝しなくても、ある程度の時間が経てば兵士達の間に広まり、タイラントの知るところとなるだろう。そして、それを知ったタイラントは、その診察時間を利用して、情報を得たり己の目的を話したりして、こちらと連携を取れるような状態に持って行きたいと考えるに違いなかった。
とはいえ、兵士ひとりひとりにかける診察時間は、特に問題が無い場合、そんなに長くない。それも勿論、タイラントは予想するだろう。
では、そう考えたタイラントは、どういう行動に出るか?
恐らく、事前に何とかしてこちらに姿を見せ、自分が居る事を知らせようとするだろう。そうすれば、こちらが何か適当な理由をつけ、話ができる時間を作る筈だと考えて。

それ故ウィッチは、エントランスの混乱状態が収拾されるよう、兵士達に念入りな指示を出した。タイラントの思惑を潰し、自分の思惑に沿った行動をさせる為に。
唯一の懸念は、果たして上官でも無い自分の出した命令に、兵士達がきちんと従うかどうかだったが、どうやらそれは杞憂だったようで、出した命令は細々しいものまで含め、総てが遅滞無く確実に実行されている。
これはやはり、部隊長から医療センター業務の支援をするよう、正式に命令を下して貰ったからだろうと考え、ウィッチは内心で胸を撫で下ろしたのであった。



(なにはともあれ……)
お膳立ては整った。
事前に自分に姿を見せる事が出来なかったタイラントは、恐らく、今回はお互いの姿を確認するだけ……こうなった経緯や思惑は判らなくとも、お互いが同じ場所に居る事を分かり合い、今後の接触の布石とする……と、思考を切り替えていることだろう。それ故、何らの劇的な展開が起きるとは夢にも思わず、ある意味、油断しきっている筈だ。
そこに付け込み、考える間を与えずに畳み掛ければ、多少の荒事にしようとも、タイラントに反撃される心配は無い。
(それに、私は『味方』だからねぇ……)
敵に対しては一切の容赦が無く、また、滅多な事では他人を味方と認めないタイラントであるが、しかし、いったん味方と認識した相手に対しては、無防備と言って良い程に警戒心が無くなる。
それを評して003が『ジョーに似ている』と言ったが、しかし、この点に関してだけは、009の方が未だマシだとウィッチは思う。
(ジョーは、少なくとも、無防備にはならない。ただ、総て許容してしまうだけで……。まぁ、結果は同じなんだから、どっちもどっちなのかもしれないけれど)
不毛な比較だと溜息を吐き、些か脱線した思考を立て直す。
(とにかく……)
茶番劇の準備は整った。何も知らない大根役者は、思惑通りに迫真の演技をしてくれることだろう。何しろ、本人にとっては演技でも何でもない、衝撃のリアルなのだから。
あとは自分自身の演技力だが、観客が大して目の肥えていない坊やとあれば、こちらも心配はいらないだろう。
(となると、最後に残る問題は、ひとつだけ)
この茶番劇の一幕が無事に終わり、総てが思惑通りに運んだ、その後。
(果たして、タイラントは私の『味方』であり続けていて、くれるかしら……?)
それが最大のポイントであり、かつ、懸念点であった。



ウィッチのやろうとしている茶番劇。それはおそらく、何の事前情報も無く渦中に叩き込まれるタイラントからは、裏切行為としか見えないだろう。
勿論、その一幕が終わるまでの間は、タイラントにそういった事を考える余裕を与えるつもりは無いから、タイラントが自分を『敵』と認識して反撃してくる心配は無い、とウィッチは考える。
しかし。
事が一段落し、落ち着いて考える時間が出来た時。果たしてタイラントは自分の意図を正しく理解してくれるだろうか?
(……相手がジョーなら、こんな心配はいらないんだけれど……)
これが009であれば、たとえどんなに理不尽な目に遭わせようとも、『きっと何か理由がある筈だ』と考えてくれるのは間違いない。だが、相手はタイラントなのだ。
(私が、もう一度『あちら側』に寝返ったと……『敵』になったと、そう思われたら……)
ひとたび『敵』と認識されてしまったら、最早、どうにもならない。何か理由があっての事と考えて貰えるとは思えないし、弁解の機会が与えられることも無いだろう。確実に抹殺されることは、疑う余地が無い。
死を恐れる訳ではないが、しかし、こんな間抜けな死に方は避けたい。
(……果たして、私は……)
タイラントに、どこまで信用されているだろうか? 同じ目的を持つ同志として、どれほどの信頼を得られているだろうか?
この4年半の自分を、タイラントはどう見ていただろうか?
(………)
小さく息を吐き、内心で首を振る。
(考えても、しょうがないわ……)
今更、日頃の行いを振り返ってみたところで、何かが変わる訳では無い。
(事が始まってからじゃ、何もかもが手遅れ。今はもう、何かを考える時じゃない……)
行動こそが、今なすべき事。
そして。
(……信じるしか、無い)
タイラントが自分の意図を正しく汲み取ってくれること。タイラントが自分を信じてくれること。それを、信じるしか無い。
(タイラントはあなた達の仲間で、私もまたあなた達の仲間。だから仲間を信じればいい。あなたはそう言うのでしょう? ねぇ、フランソワーズ……)
確かに、タイラントを信じられるか? タイラントに信じて貰えているか? と考えると、それは些か心許ない。だが、003や009を信じられるかと言えば、間違いなく信じられる。
そしてそれは、タイラントも同じ。その事もまた、間違いなく信じられる。
そうであるのならば。
(大丈夫。何も問題は、無い……)
つまり、そういう事でしょう? と心の中で003に問いかけ、そして、ウィッチは踵を返した。
タイラントを含む、問診票の記入が終わった者達を検査室に呼び入れるよう、指示を出す為に。


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