Act.5 信じるのは信じられること− シンジルノハシンジラレルコト −

  − Scene 2 −  

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「まずは、ドルフィン号の行き先、か」
ふむ、と考えるようにルシファーが瞳を閉じて。
それから、ゆっくりと目を開くと改めて009の瞳を見据え、口を開いた。
「その前にひとつ、確認したいことがある。ドルフィン号には、妙な索敵システムがあるな?」
「……?」
問いというよりも確認に近い口調。009が虚を突かれたように目を瞬かせる。その様子をじっと見つつ、ルシファーは更に言葉を続けた。
「これといった仕掛けがあるような風でも無いのに、こっちの位置や動きがリアルタイムに判る。尤も、判るといってもかなり大雑把で、戦闘のサポートという視点で考えるならば、とても実用的とは言えない。003の『目』があれば必要は無いだろう。だが、『目』が無い時に使える、というのは大きいだろうな。それに、かなりの広範囲をカバーしているようだから、接近する者を発見して先手を打つという使い方をするのであれば、かなり役に立つだろう。その上、仕掛けが全く判らない、とくれば……」
「………」
最初は戸惑うような光を浮かべていた茶の瞳が、徐々に理解の色を帯びていく。
「どーやら、心当たりがあるみたいだなぁ?」
「……っ」
向けられた言葉に、009の瞳に剣呑な光が浮かぶ。それへ、喉元でククッと笑いを殺し、ルシファーは軽く首を振った。
「そう警戒するな。それが何かを訊きたいってぇ訳じゃない。勿論、教えて貰えるってんなら、是非とも訊きたいところだが……」
「………」
噛み付かんばかりの視線。それへ肩を竦めて。
「わかった、本題と行こう」
無言で睨みつけてくる009を見下ろし、ルシファーは改めて口を開いた。
「ドルフィン号を隠す場所として考えられるのは、まず第一に峡谷。俺が行った時にドルフィン号が居たのも、峡谷のひとつだったしな。だが、今となっちゃ、それは無いだろう。俺の攻撃を受けて、003の『目』が無い時に峡谷に居るのはまずいってぇのは判った筈だからな。とはいえ、指揮を取ってるヤツが無能だったら別だが……まぁ、あの見事な逃げっぷりからして、それなりに有能なヤツだと思うんだが? なぁ?」
「………」
軽い問いかけ。しかし、009は答えない。それを気にするでもなくルシファーは言葉を継いだ。
「そうなると、次に考えられる場所はどこになるか、だが……ここでポイントになるのが、ドルフィン号の索敵能力だ。一度『敵』の襲撃を受けた以上、当然、次の襲撃を警戒する。だが003は居ない。『目』が無い。しかも、お前達には土地勘も無い。まぁ、流石に『敵』が Neo Black Ghost だというのには気付いているだろうが、とはいえ、拠点が何処にあるかなんぞ判っちゃいないだろうし、当然、どれくらいの戦力があるのかの予想もついていないだろう」
淡々とした指摘に、009はただ黙ってルシファーを見詰めるしか無い。
「更に言うなら、ドルフィン号の連中は、別行動をとっているお前達と合流する必要もある」
そこでいったん言葉を切り、ルシファーはひとつ息を吐いた。
「さて。そう考えると、ドルフィン号の潜伏場所は、例の妙な索敵システムが最大限に生かせる場所、ということになる。勿論、通常のセンサー類を配置した、簡易的な監視網の構築はするだろう。おそらくな。だが、そいつの位置付けは、せいぜいが早期警戒だろう。あまり感度のいいセンサーじゃなかったからな。発見も容易だから、見つかって破壊される可能性が極めて高い。実際、俺はそうしたから、ドルフィン号の連中も身にしみて判っただろう。従って、いざという時に頼るのは、やはり、例の妙な索敵システムになる」
あたかも作戦会議で戦況分析を語るかのように、よどみなく一連の状況分析を語り、ルシファーは改めて009を見遣った。
「ここまで来れば、もう、だいたい答えは出るだろう? 例の索敵システムの能力を最大限に生かすことができる場所。その索敵システムが何者かを感知したら、ドルフィン号に攻撃が届く距離まで接近される前に『敵』か『味方』かを判別し、『敵』と判った場合には逃走という選択が可能である場所。つまり……?」
問いかけられ、009が目を瞬かせる。眉根を寄せて地面を見下ろし、それから、視線を上げて。
「……つまり……高い山の、尾根?」
「正解」
よくできました、とばかりにルシファーがウィンクをひとつ。
そして、すっと手を前に出した。
「?」
いつの間に取り出したのか、その指に挟まれた紙片に、009が困惑したようにルシファーを見上げる。それへ、ルシファーが軽く紙片を振り、受け取れと身振りで示して。
「………」
ゆっくりと手を伸ばし、009はその紙片を受け取った。折り畳まれたそれを広げ、首を傾げる。
その様子を眺めつつ、ルシファーは軽く指を振って言葉を継いだ。
「座標だ。二つ目と、三つ目、あとは……そうだな、最後から二つ目。ま、そんなトコだろう」
不審気な視線を送ってくる009に、ルシファーがニッと笑う。
「お前達が来るのを待つ間の暇潰しだ。幾つかのパターンを考えてみたものの、索敵システムの件がどうにもハッキリしなくってなぁ。だが、今の話でだいたい絞れた。まず間違いなく、その三箇所のどこかに居るだろう」
その言葉に、009が改めて手元の紙片を見下ろす。ただ単に英数字が羅列されているだけのそれを見詰め、眉根を寄せる。
「……これが、座標?」
「そうだ。判るだろう? お前には。お前と、それから……」
はっと顔を上げた009にニヤリと笑いかけ、ルシファーはつと視線を動かした。軽く左肩を引き、西の方角へと視線を流す。向けられたその視線の先にあるのは、難民キャンプ。そして、簡易診療所。
一瞬の沈黙。
ゆっくりとルシファーが姿勢を戻す。
黙ったままの009を暫し見下ろし、それから、003へと視線を向けて。
「ひとつ目は、こんなところでいいかな、お嬢さん?」
軽い口調の問い。
003がルシファーを見、009を見る。
それへ、009が小さく頷いて紙片を差し出した。
「………」
差し出された紙片を受け取った003が、もう一度009を見てからルシファーへと視線を戻す。
青い瞳が藍鉄色の瞳を見る。
「えぇ」
了承の意を告げる、静かな返答。
「Ok。では、次だ……」
それへ無造作に頷くと、ルシファーは009へと向き直った。



二つ目の条件。それは、『怪我をさせずに009を叩きのめす』こと。
自分へと向き直ったルシファーを真っ直ぐに睨み据え、009はギリっと歯を食いしばった。つい先刻見せ付けられた実力差を思いつつ、慎重に身構える。
その様子に、ルシファーは苦笑した。
「そう構えられたんじゃあ、チョイとばっかり、やりにくいんだがなぁ……?」
軽い口調の言葉。しかし、009は構えを解こうとしない。ゆっくりと呼吸を整えながら、僅かな動きも見逃すまいと、じっとルシファーを見据える。

ゆるやかに暮れていく空。
濃淡を失っていく影。
冷たさを孕み始める風。
昼から夜へとうつろいゆく黄昏の、逢う魔の刻。

時の凍りつく音が聞こえそうな程に緊迫した空気の中、009は身動ぎひとつせず、ただ、ルシファーを見詰め続けていた。
その009の様子を、暫しの間、ルシファーはのんびりと眺める。
やがて。
「……まぁ、悪くは無いな」
ふっと微かな笑みを浮かべ、ルシファーが低く呟いて。
その、次の瞬間。
藍鉄色の瞳が鋼の色を浮かべ……
静寂のうちに戦闘は開始された。



風を切る音が聞こえた、と思った瞬間、既に009は岩壁に叩きつけられていた。
「……っく…ぁっ!」
衝撃を全身にまともに受け、息が止まる。
(なっ?)
何が起きた? と考えるより先に本能が発した警告に、反射的に横へと飛び退く。
だが。
その動きより、横から飛んできた何かの方が、格段に早かった。
「……っ…!」
飛び退いた方向が、横から加えられた力の方向と同じだった所為で、辛うじて、まともに衝撃を食らうことだけは免れる。けれど、それだけだった。とても衝撃の総ては殺しきれず、地面に叩きつけられ、意識が飛びかける。
息を吸う間すら、無い。
それでも。
途切れかける意識を必死で繋ぎとめ、その場から転がるように移動すると、009は岩壁に背を付けて立ち上がった。
(……どこ、から…っ?)
苦鳴を押し殺し、肩で息をしつつ、素早く周囲を見回す。
だが、人影らしきものなど見当たらない。
(動きが…見えない……っ)
音も、気配も、何もない。
一体、相手は何処に居るというのか?
(加速装置……?)
しかし、それなら空気の鳴る音で判る筈だ。
(ということは……っ)
上? と思った瞬間、身体が動く。
バッと岩壁から距離を取り、向きを変えて身構えようとする。
だが。
動きかけた途端、音も無く降って来た何かに、009は再び地面へと叩きつけられた。
「……ぐぁっ……あぅっ!」
背中に加えられた一撃に膝が折れ、地面へと崩れ落ちる。俯せに倒れたその背に、間髪入れず、もう一撃。更に、髪を掴まれて頭を地面に叩きつけられ、009は呻き声を上げた。
口の中に広がる、砂の味。
何とかして身を起こそうともがいた途端、右手首を掴まれて背に回され、身動ぎすら完全に封じられる。
「……くっ……」
静寂。
身動きを封じられ、奥歯を噛み締めて荒い呼吸を繰り返す009の耳に、不意に、陽気な声が届いた。
「なかなかの反射神経だ。流石は『009』だなぁ」
声の主は、勿論、009を地面に叩き付け、押さえ込んでいるルシファーだ。
その言葉に、009は押さえ付けられている頭を無理矢理捻り、横目でルシファーを見上げた。藍鉄色の瞳を、反撃の意思を込めて睨み上げる。
「………」
その様子に僅かに目を細め、そして、ルシファーはゆっくりと言った。
「その目は良くないな」
「……?」
言われた意味が判らず、訝しげに眉根を寄せる。問うような瞳は、しかし、鋼の視線に弾き返された。
何を考えているのか、まるで伺わせない、藍鉄色の瞳。
と。
掴まれていた右腕が離され、背中に掛けられた力が失せた。はっと瞬きをすれば、ルシファーは数歩離れた所に立っていて。
「……?」
意図が解らぬままに、009はゆっくりと身を起こした。
沈黙。
宵の風が足元を吹き過ぎ、黄のマフラーを微かに揺らす。
痛む身体を叱咤して両足を踏みしめ、009は、ギリっと唇を噛んでルシファーを見据えた。それへ、ルシファーが軽く息を吐く。
「あのなぁ。聞いて無かったのか? 『その目は良くない』と言ったんだが?」
「……?」
改めて言われ、009は再び訝しげに眉根を寄せた。言われた意味が判らない。
戸惑う茶の瞳に、ルシファーは苦笑した。
「ったく。言われないと解らないのか? お前のその目は、考えている事が相手に筒抜けだ、と言ってるんだ」
「……っ!」
切り捨てるような指摘に009が息を飲む。
けれど。
「………」
では、どうすればいいのか? それが判らず、009は視線を宙に彷徨わせた。



答えを求めるように暫し宙に視線を彷徨わせていた009は、二呼吸ほどのあいだ地面に視点を据えた後、ゆっくりと視線を上げた。黙したままルシファーを見る。
そして。
意を決したように拳を握り締め、009は瞳を閉じた。
「……なるほど?」
感情を伺わせないルシファーの声音。
次の瞬間。
キィンと空気が鳴った。
009がハッとする。
思わず目を開きかけ……
「……ぐぁっ」
背後から首に腕を回されて絞め上げられる。そのままグイっと上へ持ち上げられれば息が詰まり、009は首を絞め上げる腕を振り解こうと、必死で身もがいた。
やみくもに腕を振り上げ、何とかして後ろに立つルシファーの頭へと拳を向けようとした途端、両足を払われ身体が宙に浮く。その結果、当然の事ながら、絞め上げられている首だけで身体を吊り上げられる格好になり、009は慌てて両手でルシファーの腕を掴んだ。
何とかして腕を引き剥がそうと力を込めつつ、足を後ろに蹴り上げようとする。
その途端。
「暴れるな。それとも、このまま落ちるまで絞められたいか?」
耳元で言われると同時に更に絞め上げられ、009は身を堅くした。苦しさから、ルシファーの腕を引き離そうと掴んだ手を離すことは出来ないものの、ともかく足を動かすのを止め、爪先で立つようにして己の身体を支える。
009が動きを止めたのを確認し、ルシファーは首を絞める腕を僅かに緩めた。
「さて、ここで質問だ。お前、目ぇつぶったまま加速して戦えるのか?」
「………」
「返事っ!」
「……ぐぁっ」
ぐいっと首を絞められ、009がもがく。更に絞め上げられそうな気配に、009は慌てて口を開いた。
「……で…き、な……ぃ……っ」
「よし。じゃあ次の質問だ」
絞め上げる腕が僅かに緩められ、009がほっと息を吐く。だが、ルシファーは畳み掛けるように問いを続けた。
「何故、目を閉じた?」
「そ…れ、は……」
何故と言われても、答えに窮する。あえて言うのなら、その目が良くないと言われたから、なのだ。だが、それをそのまま答えていいものか判らず、009は唇を噛んだ。けれども、このまま黙っていたら、一気に絞め上げられ、意識を落とされるのは必至に思われ、009はやむなく言葉を継いだ。
「……それ、は……そのっ……目、がっ……目が、良くない…っと、言われた……か、らっ……ぅあっ……!」
言い終わるや否や、一瞬だけきつく絞め上げられ、それから、首に回された腕が解かれ、背中を突き飛ばされる。勢い余ってたたらを踏んでくずおれ、地面に両手を着く。そのまま倒れ伏しそうそうになるのを、震える腕で何とか上体を支えて堪え、009はゲホゲホと咳き込んだ。
それでも。
よろめきながらも精一杯素早く立ち上がると、息苦しさのあまりうっすらと涙の浮かぶ瞳をそのままに、009はルシファーに向き直った。ぜぇぜぇと肩で息をしながらも、折れない闘志をあらわすようにルシファーを睨み、身構える。
その様子を、ルシファーが無表情に見詰めて。
そして、静かに言った。
「同じ事を何度言わせる気だ、009?」
「……っ」
「言ったよなぁ? その目は良くない、と。ちゃんと聞いてたのか?」
「………」
淡々とした言葉に、009は視線を地面に落とした。けれど、どうしたらいいのか判らず、唇を噛む。
立ち尽くす009を暫し眺め、ルシファーは軽く肩を竦めた。
「……まぁ、いい」
そう言い、空を見上げる。夜の帳が覆い尽くそうとしている空を。
「………」
明るい星が煌き始めた頭上を一瞬だけ見遣り、再び009へと視線を戻すと、ルシファーは言葉を継いだ。
「センスは悪くない。経験も十分ある。そのお前に足りないものとは、何だ?」
問いともつかぬ口調。
「闘志は必要だ。執念も、諦めない心の強さも、当然、必要だ。だがそれは、前提条件にすぎない」
009が瞳を上げる。戸惑うような茶の瞳。けれど、その無言の問いかけは、鋼の視線に弾き返される。
そうしておいて、ルシファーはニヤリと笑みを浮かべた。
「ついでだ。もうひとつ、教えておいてやろう。目をつぶったところで、意味は無いからな」
「え?」
「目をつぶってたって、頭の中で『視線』を動かせば、瞼の下で目は動く。結局、考えていることはバレバレだ。だからな、目ぇつぶったまま加速して戦えるようになろうだなんて、馬鹿なコトは考えるなよ? ま、やって出来ないことじゃぁないが……お前には未だ早い」
そう言って楽し気に笑うルシファーを、009は、ただ呆然と見詰めるしかなかった。



「さぁて、と」
軽く息を吐き、ルシファーが今一度空を見上げる。
「……ちょっと時間をかけすぎたか? いい加減、お嬢さんが待ちくたびれっちまうよなぁ……」
暢気な口調。だが、その言葉の意味するところに気付き、009はさっと身構えた。それを、何かを考えるように、ルシファーが暫しじっと見詰めて。
そして。
「ま、この際だ。もう少しだけ、サービスしてやる」
「?」
言われた意味が判らず、困惑したように目を瞬かせる009を見遣り、ルシファーは軽く右手を上げた。そのまま指先をちょいちょい…と動かして。
「かかってこいよ」
「……えっ?」
「ほら、どうした? それとも、何も出来ないまま叩きのめされるのが好みか?」
挑発的な口調に、009がキッとルシファーを睨む。その様子に薄く笑みを浮かべ、ルシファーは改めて言った。
「よし。……かかってこい」
笑みの無い瞳で009を見詰め、もう一度、上げた指先をちょいちょい…と動かす。
そのルシファーを、009が歯を食いしばって睨み据え……

次の瞬間。
不意に、大気が切り裂かれるような悲鳴をあげた。
同時に起動された二つの加速装置によって、砂塵が宙を舞う。
幻のように行き交う、二つの影。
瞬きひとつの間の、攻防。
そして。

始まった時と同様、唐突に静寂が戻った。



003の目の前に、影がひとつ現れる。
灰色のマントを纏った、堅い墨色の髪に藍鉄色の瞳の男。
その腕に抱えられているのは、真紅の戦闘服に黄のマフラーをつけた、栗色の髪の少年。
それは勿論、ルシファーと、そして、009だ。
ぐったりとしている009の顔を、003が覗き込む。
「ジョー…?」
そっと呼びかけても、意識の無い009からは応えが無い。
「ひととおり『見て』もらえば判るが、気を失ってるだけだ」
ルシファーの言葉に、暫し009の身体を見詰め、それから、003はゆっくりと頷いた。
「……えぇ……そのようね」
ほっと息を吐き、それからルシファーを見上げる。
その青の瞳を、藍鉄色の瞳が見下ろして。
「これで、条件は総てクリアしたと思うんだが?」
「……えぇ」
静かな問いに、静かな答え。
吹き過ぎる夜風が、003のマフラーをゆるやかに靡かせる。
「では……」
一緒に来て貰おう。そう言われると003が思った、その瞬間。
「ま、とりあえず夕飯、か?」
軽い口調にウィンクをひとつ付け、ルシファーが笑った。
「え?」
あまりに突然の言葉に、003が目を円くする。
「あんたを夕飯抜きで歩かせる訳にもいかないし、それに……気を失ってるコイツをこの場に置き去りってのは、嫌なんだろう?」
「………」
「暇を持て余してるってぇ程じゃないが、ま、1時間もあればコイツも目を覚ますだろうからな。それっくらいなら、いいさ……着いて来な」
そう言って踵を返し、簡易診療所とは逆の方向へと歩きだすルシファーに、003が行き先を問う。
「……ルシファー…さん? あの。どこへ……?」
「ちょっと道から外れたところに、丁度いい野営場所がある。ま、この辺りは俺の庭みたいなモンだからな。心配はいらない」
振り返らずに答えたその背を一瞬だけ見詰め、それから、003は意を決したようにその後に続いた。


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